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小島アジコのブログです

『自己家畜化』という人類にインストールされたアプリについて考えたこと

ご恵贈頂きました

『人間はどこまで家畜か  現代人の精神構造』

(id:p_shirokuma)先生より、献本頂きました。

ところで、こういう風に本を送ってもらった時、ずっと「献本頂いた」って書いてたんですけれども、正しくは「恵贈頂く」と書くのが正しいのですってね。最近知りました。献本、は本を献上する相手に対する敬語なので、自分で自分に対して敬語を使ってることになるからおかしいということです。ずっと献本って言ってた。恥ずかしい。そういえば就職活動をしてる時も、結構長い間「御社」「弊社」「貴社」の使い方の違いをよくわからないまま使ってました。話戻ります。

(id:p_shirokuma)先生より、ご恵贈頂きましたこちらの本、自己家畜化について、まずそれが生物の中でどのような機序で起こるのかというところから丁寧に説明されていて、そしてそれによって社会がどう変わってきたのか、そしてこれからどう変わっていくのかを予測するという本です。非常に読みやすくエビデンスも示されていて、とても面白かったです。自己家畜化、という言葉は響きが非常に刺激的で、故に多分に政治的、社会的な指向性を持つのですが、そのイメージに引っ張られないように丁寧に作られてる本でした。

このエントリは、この本の紹介のためのエントリです。ですが、この本の内容の紹介ではなく、この本を読んで自分の考えたこと、感じたことを書いていこうと思います。

人間はどこから家畜か

こちらの本では、ホモサピエンスがどのような過程で淘汰が起こり、そして、選ばれた個体の身体的性質はどのようなものかということが述べられています(そして誤解が起こらないよう、類推解釈をするような余地を極力書かないようにしている)ハードウェア(人間の体の仕組みの変化)、ソフトウェア(文化や文明、哲学)、両方の観点から自己家畜化がどのように起こり、そしてその結果どのように【社会】が形作られていったのかが述べられています。(ただ、今から話す自分の感想は個人ブログのエントリなので、もっとざっくりと、例えを用いて話をしようと思います)

ハードウェアとソフトウェア、両方で自己家畜化は起こっていますが、では、なぜ人間だけ【ソフトウェアで自己家畜化】が起こるのか。他の動物では起こらないのに。

人類は、およそ7万年前に旧人ネアンデルタール人)から新人(クロマニオン人)に進化した時に、脳の機能が大きく変わりました。形而上の思考ができるようになり、複雑な言語を使えるようになり、【物語】を扱えるようになりました。(ここらへんの話はサピエンス全史 上 文明の構造と人類の幸福 (河出文庫)で読んだ受け売りです)コンピュータや電化製品に例えると、今までは工場出荷状態で完成していてそれ以降OSやアプリの入れ替えができない製品だったものが、後入れでアプリやOSの入れ替えができるようになった、という風に考えることができます。

そうなったとき何が出来るかというと、環境への適応能力がグンと上がります。寒いところでは服を着て、寒さをしのげる建築物を作り、また、暑いところでもそれにふさわしい行動様式を作って、それを伝えていくことができるようになります。

また、物語のちからを使えるようになったことで、普段一緒に生活する人間以外とも、大枠の【社会】を形成できるようになりました。人間のそもそものハードウェアの機能としては150人までの社会が限界らしいのですが、それを越えて団結ができるようになりました。

そのようにして人間は、後入れのアプリによって、生息域を拡大してきたのですが、他の動物の進化と違い、肉体は大きく変化をせず(アプリの進化に間に合わない)『ステップ気候に適した集団で子育てをして採集をして生きる生き物』のままです。なので、出産が困難であるということや、様々な成人病などの不具合が発生しているわけです。ゲームボーイにアプリを入れて音楽作成ハードウェアとして使ったり、炊飯器にもともと入ってるマイコンを使ってロケットを飛ばしたりしているようなものです。ちょっとというか、結構無理をしている。

ただ、それでも、数万年を生活していく中で、ある程度、自然淘汰は行われて、そのフトウェアを動かすのに適した個体が優先的に残されていき、7万年前に生きていた人類よりも『現代社会』を動かすための生き物として適した形に『進化』はしています。それが形質的な【自己家畜化】です。

アプリの進化にハードウェアが置いていかれる

ただ、今(自分のイメージではここ100年くらい)は、社会の進化の方が早すぎて、形態の変化の方が全く追いついていない状態が発生しているのではないか、と思うのです。例えるなら、魔神の性能が足らずにWindows11が入れならないパソコンみたいな状態で。そして自分の感覚ですが、現代に生きる人の半分くらいはその性能の足りないパソコンに、無理やりwindows11をインストールして動かしている状態なのではないかと思うのです。精神疾患や社会にうまく適合できない人間の数が非常に増えているのはそういうことなのではないでしょうか。世の中にはWindows10どころか、98や7で動いている人間(そしてそれしか適合するOSがない)だって、まだまだたくさんいるのに、現代社会というのは、そのwindows11で動くことを要求してくる。そして、そのwindows11も、アップグレードを常に繰り返しながら、数年後には全く新しいOSがリリースされ、そしてそれに適合することが要求される。

例えば、今から100年ほど前くらいには【舐めたことをされたら瞬間、沸騰して相手に対してリベンジをする】というのが、社会でやっていくために必要なスキルでした。(そうでないと舐められっぱなしになる)しかし、現代では【舐められた(と感じた瞬間)沸騰して殴りかかってくる】という人間は社会不適合者です。アンガーマネジメントができていない。そしてそれはOS的な問題ではなく、ハードウェア的な問題であることだってあるわけです。いくらアプリで対応しようとしても、どこかに無理がある。

そして、そういう不具合が、今、結構多くの人間の中で起こっているのだと思います。

いったい誰が、そのアプリのアップグレードをしているのだろう?それによって誰が利益を得ているのだろう

じゃあ、一体だれが、そんな大多数が無理無理、ってなってるのにアプリのアップデートを続けているのでしょう。
その話をすると少し長くなります。まず、進化とは何か、というところから話をしないといけない。

進化論に対する世間の大きな誤解のひとつに、

『生物は環境に適応するために”進化”する』
『古い生き物が進化して新しい生き物になる』
『世界は調和している(調和している状態が正しい自然である)』

というのがあります。

生物は、~するために進化する、訳ではありません。生物の変化は目的を持ちません。【生物種が進化する】まず環境が変化して、それに適応できなかった生き物が全て滅び、たまたま、その環境に適応する形質を持っていた生き物が繫栄する、それが外側からは『まるでその生き物が進化』したように見えるだけのことです。実際は、そのもとにいた生き物は全滅をしていて、その生き物の中の傍流の形質を持つ生き物が、何とか生き残り、そして、元の生物の形に戻ることができなくなった、ということです。(そしてその後の緩やかな環境の変化の中で、また、その生き残った生き物をベースにしてニッチを埋めるように色々な種類の形質を持った生き物が増えるのだけれども、それはまた別の話)

そして、生き物の世界は『調和』している、というのも間違いで、自然というものは遷移しています。どんな調和しているように見える環境でも、どこかバランスが崩れてゆっくりと破綻していきます。人間だけが環境を破綻させる生き物ではありません。恐竜時代、白亜紀の終りの方は、大型のティラノサウルストリケラトプスばかりが残り、生物多様性は失われていました。生物相というのは、バランスを失って破綻するまで変化し続けます。そして、最後には必ず破綻します。それが早いか遅いかの違いはありますが。

そして、その環境へ変化していくのに、『個々の生き物』『個々の生物種』の”意志”や”思惑”というものは存在しません。生き物それぞれがハードウェア、本能によって行動し、その複雑な行動の結果、環境はゆっくりと変化していきます。

まず、これが前提条件のひとつ。

ソフトウェアのアップデートによって【利益】を得ているのは誰か

今の人間のソフトウェアにインストールされるアプリ。

『いったい誰が、そのアプリのアップグレードをしているのだろう?それによって誰が利益を得ているのでしょうか』

利益を得ているのか、と書きましたが、この場合の【利益】という概念について、少しややこしいので説明します。副読本として利己的な遺伝子 40周年記念版を読んでおいて頂けると話がスムーズに進みます。

遺伝子の乗り物としての生命

まず、全ての生き物は遺伝子の乗り物です。生き物にとっての(そしてその遺伝子にとっての)利益、というのは『繁殖の効率』です。どれだけたくさん生まれ、どれだけたくさん成長でき、どれだけたくさん外敵に食べられないか、というのが利益、であり、それぞれの生き物がそれぞれの戦略で、形質を変化させてきました。

ただ、人間の場合は、少し勝手が違ってきます。人間は、その(生物学的な)遺伝子だけでなく、別の遺伝子の乗り物でもあります。【ミーム】と呼ばれていますが、これは【情報】の遺伝子です。

物語であったり、生活の知恵であったり、哲学であったり、道徳であったり、7万年前にホモサピエンスに進化した際にソフトウェアを後入れできるようになった時から発生した現象です。動物の形質を決定する遺伝子と同じように、このミームは生存に有利な機能を持ったものが優先的に残されて行きます。宗教、狩りの方法、道具の作り方、社会のルール、共同体の仕組み。より、【繁殖に適したアプリ】が残り、進化していきます。

そして、このアプリの進化も、生命の進化と基本的に同じように【行き当たりばったり】で進化をしていきます。成長の方向性、意志を持たず環境に不適応になったアプリが絶滅して、残ったアプリが変化してニッチを埋めていきます。そして多くのミームは淘汰され消滅していきます。

そして消滅の仕方には生物の絶滅と同じように2種類あります。

ただ、それが弱かったから淘汰されたというパターン。
そしてもう一つのパターンは、強すぎたために、環境を破滅的に破壊してしまい、全部焼け野原にして、何もかも無くなってしまうパターン。行き過ぎた信仰や民族主義というのはこれにあたるでしょう。

そして、進化(遺伝子の運搬)について、もうひとつ重要な要素があります。それは

『進化(性淘汰)というものはハックされる』

ということです。

ハックされる進化について

動物たちの中には、生存に不適なくらいに大きく綺麗な羽をもつ生き物や巨大な角を持つ生き物がいます。

これらの生き物のこのようなパーツは、この動物が生活していく(餌を取ったり逃走したり)に全く寄与しません。むしろ邪魔で、生存の邪魔にさえなります。エネルギーは使うし、捕食者に狙われやすくなります。なら、なぜ、このような立派な飾りがあるのでしょう。それは繁殖の為です。羽が立派な方が、角が立派な方が、メスにモテる。
そしてモテたオスは繁殖できるので、生淘汰が働いて、どんどん羽は派手になり、角は立派になっていきます。無茶苦茶ですね。

その前に考えなければいけないのは、では、なぜ最初に、その羽や角が立派なオスがメスに選ばれるようになるのか。メスはその羽や角でオスを選ぶようになったのか。

まず一番最初に、メスは『どのオスを選ぶのが子孫を残しやすいか』というのの選択をします。

『強いオス』を選ぶには色々な尺度があります。人間でも配偶者を選ぶときに色々な要素を検討するように。しかし、その検討には【コスト】がかかります。時間もかかるし、考えたり判断したりする知能も必要になってきます。そして、その【コスト】を節約する方向に【淘汰】が起こるのは当然のことです。オスを選ぶためにメスはそれぞれ簡便な異性の識別方法を獲得しそしてその色々なパターンの中で、最もコストとベネフィットに適した手段で相手を選ぶメスが子孫を多く残しそして、子孫はみんな【その判別方法】を用いて異性を選ぶようになりました。その判別方法が、羽であり角だったということです。

羽が綺麗なオスは栄養状態がよく、狩りが上手い、とか立派な角を持ってるオスは成長が早い。とか。そういう理由があったのでしょうそして、メスは「出来るだけきれいな羽をもつオスを選ぶ。羽は綺麗であれば綺麗であるほどいい」という戦略を取り、そしてそれが(その時点では)大正解だった。

しかし、ここからが問題です。

ここで、【ハック】が起こります。

元々は、そこのパーツは【全体の調子のよさを反映している】ものでした。でも、そこしか観ずにメスがオスを選ぶということは【そこの部分さえ立派なら他はどうでもいい】というようにオスの形質も変化していきます。

丁度、ビジネスの世界で「相手が本当の金持ちかどうかを判断するには靴を観たらいい」「その飲食店に未来があるかどうかはトイレをみたらいい」というミームが膾炙すると、それを逆手にとって「とりあえず靴はいいものをはく」「他は駄目でもトイレだけは綺麗にする」という作戦が生まれるみたいな感じです。

そして、そのようにセットされてしまった【形質】はリセットされません。ギリギリ生存ができる「羽や角」の範囲に収まるか、または、その羽や角のせいで絶滅することだってあるでしょう。

さて、ここまでを前提にして、先ほどの話に戻ります。

『いったい誰が、そのアプリのアップグレードをしているのだろう?それによって誰が利益を得ているのか。』

誰のための【社会の進化】なのか

このアプリ【アプリAとします】(資本主義を多く含み、その中に人権意識や遵法意識を含む)を選択することによって、繁栄した時代がありました。そのアプリを選択した社会や個人が戦争や競争で勝ち、そして、そのアプリを採用する人間や社会を増やしていきました。それは、私達の中に【そのアプリを優先的に採用する】というアプリ【アプリB】が生まれ、そしてそのアプリも継承、伝播していったということでもあります。

【アプリB】は【アプリA】の性質が強ければ強いものを優先的に採用するようになりますので、【アプリA】はどんどん強化、先鋭化していきます。丁度鳥の羽がどんどんと伸びていったように。

先の鳥が、その羽でオスを選ぶという形質によってオス選択のコストを下げ繁殖した時期があったように。おそらく、2000年頃までは、この【アプリB】は【形質的な部分で考えた人類】にとっても非常に有意であったのでしょう。それは人口の増加のスピードをみると明らかです。

しかし今現在はどうでしょう。

そのアプリを採用し、過適応している国や社会というものは、今のところ反映しているが、衰退の兆しが見えはじめています。一番最初の方に書いた、精神障害や社会適応障害の増加、そして何より、歯止めのきかない少子化があります。ミームの部分である、経済成長に関していえば著しいですが、その乗り物である人類自身に対しては、もう、かなり無理が来ているのではないでしょうか。
恐らく、このアプリの先には『環境全部破壊して破綻して全部終わり』のシナリオしかありません。
先の鳥や角のある動物の場合は、ある程度の部分で歯止めがかかります。それは、捕食者がいるからです。ある程度以上にそちらにエネルギーを使った個体は、繁殖に至るまでの間に捕食者にだべられてしまい繁殖までたどり着けません。

しかし、この人間のアプリ(資本主義、自己家畜化、ほか色々含む)を使用している【集合】には、捕食者にあたる外敵がいなません。世界で一番発展してしまった【ミーム/情報生物】だからです。

そんなこんなで、未来は暗いです。

未来について、できること

ただ、人間に乗っかっているソフトウェアは、ハードウェアと違い【未来予測】ができます。基本行き当たりばったりなところは変わりませんが、しかし、【方向性】を自分で考えてその方向へ向けて変化していくことができます。その未来予測によって、その破滅的な未来を予想して、そのアプリの機能を排除、オミットするという選択肢も取れるかもしれません、または、このアプリを使っている文化圏の衰退に伴い、別のアプリを使う文化圏が勃興し、入れ替わりが起こるかもしれない。そういう未来だってあると思います。

(id:p_shirokuma)さんのこちらの本も、最後にそのような未来への希望をもって閉められていました。人間は(そして人間に乗っているアプリ/それ自身を人間と呼ぶことができるのかもしれない
)は未来を自分で獲得できる生き物です。そして、そのためには色々考えないといけない。この『人間はどこまで家畜か』という本は、その思考のための一助になる本だと思いました。

人間はどこまで家畜か 現代人の精神構造 (ハヤカワ新書)

おまけ

さて、近年になって、なぜ、こんなに急速に、人類の形質の進化を置いてきぼりにする速度でアプリの進化が進んだんでしょうか。

その原因はインターネットです。

この人間に乗っかるミーム(情報遺伝子)というのは、人間のネットワークの量と速度に依存する。人類の数が70億に増え、また、その情報のやり取りの速度が、中世とは比べ物にならないくらい加速した結果、ミームの進化も爆速になったのだと思います。全部インターネットが悪い。

インターネットYAMERO!

なんか、長々と書いてしまったけれども、専門家でも研究者でもない床屋談義なので、真に受けないようにしてくださいね。ここはインターネットです。